ヘブン審査会の演目を作るにあたってわたしが考えたこと

これまで目的があって足を運んでくださるお客様の前でしかショーをしてこなかった自分がはじめて大道に出るにあたり、今までとは違う演目の作り方を試みました。
おもに自分の備忘録として、今回の演目の製作過程を記しておきます。

演目の土台について

前提(自分の中での)

  • 全員初見と想定して、みなさんに好ましく思われるものでなくてはならない
  • 撤収含む15分で、予告編でなく本編パッケージとして成立させねばならない

これらのことを踏まえ、以前園児向けに制作した25分のパッケージ(緊急事態宣言のためお蔵入りしました)を元に再構成することに決めました。
※審査会側からこういう制約を受けるわけではありません。あくまで自分内部での前提です。

わたしの芸を見にいらっしゃるステージショーのお客様とは違って、大道芸ではまったく初見の、需要ゼロのところに出しゃばっていくわけです。
そのうえ審査なので、to be continuedはありません。ごく短い時間の中で、求められる基本的な技量をすべて見せる必要があります。

元になった演目でデッキブラシを飛ばすに至った経緯

道具使いであるわたしがスティルトでの芸を深めるにあたり、

  • でかいからこそできるもの、より面白くなるもの

そういうものが見たいと思って、「ぶっ飛ぶ巨大な杖」の着想に至りました。
(たいてい「自分が何を見たいか」というキービジュアルを得るところから演目を作り始めることが多いです。)


大きいものはそれだけで怖い存在で、さらに道具を振り回すとなると、ちょっと工夫が必要です。
くわえてわたしは大人向けのダークな演目を得意としているので、気を抜くと簡単に怖くなります。

  • わたしのパーソナリティが生きるキャラクターで、こどもに怖がられないもの
    →「ちょっとおっちょこちょいな良い魔女」はどうか?


これを出発点に、実際にこども(実子、現在6歳)の率直な意見を聞きながら、キャラクターを作り上げていきました。
最終的には取ってつけた「おっちょこちょい」さは薄くなり、「落ち着いているけどちょっとズレてる」実際のわたしに近いパーソナリティになりました。
また見た目もアニーのような金髪くりくりヘアの良い魔女から、地毛を活かした黒髪の魔法使いに落ち着きました。

初代「ちょっとおっちょこちょいな良い魔女」の【もじゃまじょあゆみ】。まだ白いエプロンはありません。
息子が言うには特にカーリーヘアが嫌いだということでした。

再構成の際、心がけたこと

情報の質と量、流れと強弱

大道芸向けの演目として 、下記を念頭において構成しました。

  • 頭3秒でつかむ
  • 一曲目で味方につける(ご挨拶、これから何をするのかの予告→期待につなげる。出し惜しみしない)
  • 集中してみていただくところは各シーン1分に絞る。
  • 転換中は情報減らしてリラックスしていただき、お客様とコミュニケーションを図る
  • Wowファクターを散りばめる
  • 15分しかないすべての瞬間において、楽しめる要素を欠かさない

解決すべき課題

  • 喋れない(極度のあがり症、パフォーマンス的にもヘッドセットなど不向き)
  • 全力のフープ演目のためにはスティルトを脱がねばならない

施した策

それでは実際にどのような策を練ったか、いくつか具体的にあげてみます。

まず解決すべき課題・喋りについては、MC代わりに音楽に物語ってもらことにしました。よって必然的に日本語での歌を多用することになりました。
またスティルトについては脱ぐための展開も見世物にすることで解消を図りました。

練習していると二言目に頂く質問が「それってどうやって脱着するんですか?」なのです。みなさん気になることなら、実際見せても面白いよねと。

頭3秒でつかむ

舞台と違って袖がなく、準備の段階からある程度バレるので、スタンバイの時点で「あら素敵~」と思ってもらえそうな見た目にしつらえました。
幕が上がる感を演出するためにファンベールで顔を隠してスタート、曲に合わせてベールのセルフ緞帳を上げて、最初の拍手をいただきました。

道具入れ兼ポータブルスピーカー専用キャリー。持ち手は伸縮式で、スティルトを履いたまま運搬可能。
ゆめかわから地獄まで対応できそうな風に製作してもらいました。

一曲目で味方につける

一曲目はチャラン・ポ・ランタンの『忘れかけてた物語』。
まさに「なにかが始まる感」満載の曲に乗って、目が慣れる前に矢継ぎ早に道具を持ち替え続け、「サービスしまっせ!」の姿勢をアピールしました。
曲の中でも展開を意識し、Wowファクターふたつ(スティルトでのハイキック、スティルトフープ)を設置、期待感を持って二曲目につながるよう設計しました。

怒涛の展開は1分単位で構成

技術に酔っていただきたい時間は、目の慣れと飽きを意識して、およそ1分毎に展開に変化を持たせました。
1分というのはわたしの演技内容からなんとなく導きだした数字なので、汎用性については疑問です。

〆の平地でのフープもシングルから始まって最後のスリンキーフープに至るまで、アップダウンの激しい曲が導く怒涛の展開に気持ちよく乗っていただけるよう配慮しました。

転換はリラックス&コミュニケーションタイム

15分の持ち時間では転換も貴重な演出時間です。
怒涛タイムの間に差し込まれた転換では同じ曲を使う(ジングル扱い)などして情報量を減らし、お客様にリラックスしていただくこと、ストーリーとパーソナリティを伝え、お客様の内心に能動的な働きをうながすよう心掛けました。

リラックスしている最中にも「あっ」というハプニングを楽しんでいただけるよう、スティルトでのスプリットダウンなどのWowファクターを挿入しました。

すべての瞬間において楽しめる要素を

ひとりで取り廻すのでどうしても手薄になる瞬間はあるのですが、目くばせだったりちょっとしたしぐさだったりで、手が回らない時もお客様が放置されてると感じないように配慮しました。
例えば衣装チェンジの際。ただ脱ぐのではなく曲にあわせたステップ移動でチャームを振りまきながら脱ぐなどし、どの瞬間にも何かしらの楽しめる要素を取り入れるよう努めました。

初お披露目となった審査会を振り返って

できる限りの準備はしたものの、実演の機会を得たのは審査会当日でした。
当日を迎えるまでに何度も通し練習をしましたが、基本的にひとりでやっていますし、チェックのための記録を撮るのも難しく、アクトを客観的に見ることができたのは審査会の記録映像ででした。

初めて客観的に記録を見てみて、もっとボリュームを持たせたいところ、もっと目が喜ぶ動きに洗練できるところ、安心してハラハラしてもらうべきところなどが見つかりましたが、意図していたことは概ね達成できたように思います。

お客様とのエネルギーの応酬についても、審査会という特殊な状況ではあれど、終始楽しくやらせていただけました。
コロナ禍で諸々の制約を受ける中、こんな寒い日陰の席で楽しく見るのも厳しい状況なのに、暖かい拍手を送ってくれたお客様。審査員のみなさまにも感謝です。

何が功を奏したのか

諸条件と各課題に対し戦略を練ったのもですが、自分の選んだ道具のポテンシャルと、キャラクターのパーソナリティについて時間をかけて向き合ったことが実を結んだのではと考えます。

わたしは物と、それを扱う人間の肉体と、それらが相対した際に生まれるものを信じています。
その肉体だからこそできること、その人だからこそ生み出せるものを、信じているのです。

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